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2010年1月31日 (日)

『言伝(ことづて)』後編

翌朝(よくあさ)彼は、奥さんに『足袋で歩く音』のことを話します。

 「昨日 夜中に、誰かが赤ん坊を見に来たよ。
…姿勢が良くって、着物をきりっと着こなした白髪のお婆さん…
って、実は見たわけじゃないんだけどさっ?
どういうわけかそう感じたんだよねえ、
妙にリアルに…。
 足袋の音もね?あれは、
新品の音じゃないかなあ?
糊が効いてて、
裏側が真っ白な感じ。
ウチの畳、青くてまっさらやんか?
その上をこお、
 しゅっ …、しゅっ …、
と歩くのよ。

 ありゃ挨拶に来たんだなあ。
昔の人って何か大切なお出かけの時には新品を『下ろした』やんか。
それに紋付の羽織だよ?
なんか帯の前にこお、袱紗(ふくさ)かな?あれなんだっけ?
バッグか何か和風のほら、和風でもないのかな?
小さなやつを、ま、とにかく何かだよ(!)、
それを、そっと携えるっていうの?こお、持ってね?
要するに昔の人(←女性)の正装だよ。

いやね?見てないんだよ?
曰く説明し難いんだけど・・・・・・、
そういうイメージ(!)。
 明らかに俺の知らない人なんだよ。
ゆうれい。
面識無いんだよ。
だから挨拶に来たんだよ。
絶対に。
 俺 目礼で答えたもん。
 絶対お前の方の親戚やと思う。
 たぶん、そのうちなんか…連絡 来ると思うよ。」
 
 そうした感性に疎い奥さんは取り合いませんでした。
「気味の悪いこと云わないでよ。縁起でもないっ。」

 ですが、その日のうちに電話が入ります。
 奥さんの『ご母堂の姉』が他界したという知らせでした。
 亡くなられたのは昨夜。
 まさに彼が足袋の音を耳にした頃のようです。

 彼は考えます・・・・・・。
 亡くなられた人は、どうも…
『赤ん坊を見に来るという行為を最優先』していたフシがある。

 人は死ぬ時、『はたして複数の場所に挨拶に行けるものなのだろうか?』、

 もし仮に、『一斉メール的挨拶』が「不可能」だとするならば……、
(そんな挨拶、死ぬ時にまでやってんじゃねえよっ、てなものですが)
死に往く道すがら、そうです人生の最後に、
「自分の妹」の「孫」を見に寄ったその行為には、
何か『意味深いメッセージ』があるのかもしれない。

 慌てている様子は欠片もなく、
きちんとした姿で、落ち着いて、
ゆっくりと子供を見て行った……。
 おそらくあれは「ついで」ではない。 
 その折、彼にも「挨拶オーラ?」を送ったようだ。

 それにしても、妹や、赤ちゃんの母親の前など、
『血の繋がりのある人』の前には現れないで、
何故『他人の彼の前に現れた』のか・・・・・・・?

 感知できたのが偶々彼だったのだ、と取ることも可能です。

 ですが…、

「偶然ではなかったんだよ。」

と彼は云います。

 
 『彼』と、彼の奥さんの『ご母堂』との間には……
ある共通点があったのです。
 ふたりとも、ある意味『過去』を背負っていた。

   
 ☆(以降便宜上、彼の奥さんの『ご母堂』=『妹』、と記したりします。)

 「『足袋の姉』をはじめ、両親、姉妹たちを
『妹』は避けていた。そして両親を恨んでいた。」

 「足袋の音を耳にした『彼』は、
彼の兄への恨みは枯れていたものの、
兄を見限り、またある事情から、
とても関係は疎遠だった。」

 
 彼が「足袋の話」を、奥さんの『ご母堂』(←妹のこと)に伝えると、

「あらあ…そう…。」

と、驚くと同時に なんとも複雑な表情になり、
亡くなった姉について、また自身の過去について
語りだしたのだそうです。

 実は『妹』は、姉妹たちの中で『ただひとり養女に出されていた』のです。
それが原因で『妹』は、自分の両親や他の姉妹たちを恨んだのだと云います。
「何故自分だけがこんな目に?」「自分は両親に捨てられた」、と。
 養女に出された先は裕福な家で、若い日はそれなりに幸せだったと云います。
が、やがて、家が没落し、その後は苦労を重ねます・・・・・・。

 長い年月が経ちます。
…ある時、『妹』が入院した折に、同じ病院に偶然「足袋の『姉』」が入院していて、
何十年ぶりかに再会します。
 その時 姉は妹に、当時もう他界していた両親の気持ちや、自分たち姉妹の気持ちを伝えました。
特に、母が死の床で、「あの子には可哀相なことをした。」と、
何度も何度も口にしていた話は、妹には印象的だったと云います。
 ところが妹は心を開かず、そのせっかく?のチャンスに、
姉と和解をしないまま別れてしまったということでした。

 それを聞いたわたくしの友人『彼』は・・・・、
何故幽霊が挨拶に来たのか、ようやく悟ったのだそうです。

 幽霊さんは
「あなたなら伝えられるでしょう?お願いしますね。」
と、自分に託したのだ、
と、彼は云います・・・・・・・・・・。

 わたくしと彼とはもう古い付き合いなので、
彼の人生に起こった事件はほぼ知っています。
前述のように彼自身も、当時兄との関係に、
ある意味『重大な問題』を抱えておりました。
わたくしを含め、彼の共通の友人は、
「彼が、人生のある時期『兄の事件』により人生観すら変わってしまい、
超マゾヒスティックな日々を送っていた当時」、
彼のことを こう呼んで慰めた?ものです。

「よお!元気か?『日本一の不幸男っ!』」(笑)

 これはわたくしのもう1人の友人が命名したのですが、
当時の彼の哀れな境遇を見事に云い得、
またそれを「ちゃかす」ことにより、
絶妙に彼を癒していたように
わたくしには窺がわれます。
 簡略化して述べるなら、彼は、その事件のために、実質兄との縁が切れたのです。
彼の兄もそのことについては、黙秘権を行使するかのように振る舞い続け、
その後社交辞令以外のやり取りは一切なくなったそうです。
あの事件は確かに、当時の若い彼にはキツかろうと推測されます。
しかし、「足袋の幽霊の訪問」当時、彼は、よく云っていました。
「いやあ、今のところ僕に限っては、
己の人生に起きた不幸の全ての原因は自分にあると思う。
本当にラッキーなことに僕は今のところ『不当に理不尽な目』には遭ってない。
兄の事件も、元々は自分が悪いのさ。
良い事も悪いことも、しょせんは自分の行為の積み重ねの上の、
その結果の現在やんか?」

 ……と云いつつも、彼は兄のことを許してはおりませんでした。
 しかしその忌わしい事件も、時が経ち、風化し、彼の怒りや絶望も、薄れてはゆきます。
第一子も五体満足で誕生していましたしね…。神に感謝すべきでしょう。 

 で…、
今回の、正装の老婦人の幽霊です。

 彼は…、義母(←『ご母堂』=『妹』)に話しました。
自らの兄とのことを。

 そして云いました。

 「お姉さんはおそらく、わざわざ会いに来たんです。
 実は『あなたに会いに来た』のだと思います。
 そして、メッセンジャーとして僕を選んだ。
 僕には想像できるからです。あなたの苦しみが。
 そして、彼女は僕を試してすらいます。
 どうでしょう?
 なんとか許してはあげられないものですかねえ?
ご両親を。そして姉さんたちを。そして恨んだ自分自身を。

 僕も……、是非そうしなければと、
いずれは絶対そうしなければと、
ほんとうに考え始めているところです。
 兄が、嘘やごまかし無く、ちゃんと心の底から謝ってくれるならね。

・・・・・・・・凄いと思います。
足袋の音だけで、私達ふたりに、いえ、妻とおそらく子供にも、
伝えたかったことを伝えたのですよきっと。
神様みたいに微笑んで、ベビーサークルの周りを
静かに歩いておられました…………。」
 
 『妹』は、涙し、
許してあげたのでしょうか?
それは・・・・・・
皆さん、それぞれに想像してみて下さい。

 すくなくとも現在、わたくしの友人と、その兄上殿は、
以前の関係を取り戻したそうです。
 もちろんそれからいろいろとあって、
運命は和解へと、いざなってくれたということです。
 『それは、きっと彼らが互いにそれを望んだからでしょう。』
 人は、「自らが望む者」に、なるのかもしれません・・・・・・。

 長くお付き合いいただきまして、
誠にありがとうございます。

 どうぞ今夜も好い夢を。

 
 おやすみなさいませ。 
 
    
       2010年 1月 31日

          花田光こと伯林青 拝     

 PS:☆お断りーーーーーーー

≪『フォークロアーなお話』というものは、
実はそれぞれの人生にぐっと食い込んだ世界に
触れるものが意外に多ございます。
 ですから、どうしても匿名性を維持し、
詳細については語れないことも出て参ります。
 発表された情報が、人を傷つけるものであってはなりません。
その点につきましては細心の注意を払いつつ、
しかし話の魅力の本質を損なわぬよう、
わたくしなりに誠実に表現してゆく所存です。
 どうか、素敵なお話、こっそりと教えてくださいませ。
 
 わたくしがこんな話を集める訳は……
わたくしの大好きな映画・戯曲の中の言葉に代弁してもらうならば・・・・・・・、
『何かいい話があって、それを語る相手がいるかぎり、人生捨てたもんじゃない。』

(戯曲では、「何かいい話を心の片隅に持っているかぎり、
そして、それを語る相手がいるかぎり、
人生まだまだ捨てたもんじゃない」)

ダニー・ブードマン・T・D・レモン・ノヴェチェント
という長い名前の人物の、この言葉に尽きるでしょう。

語る奴がいて、聴く奴がいれば、とりあえず素敵なのです。

わたくしは両方大好きです。
聴き、そして、
こうして語りたいのです。・・おやすみなさいっ。≫

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コメント

なんだかこれで小説一本書けそうなすごい話ですね。事実は小説より奇なりってこういうののことでしょうか。
シリアスな話の途中で「一斉メール的挨拶」って言い方にちょっと笑っちゃいましたゴメンナサイ。

投稿: みちり | 2010年2月 2日 (火) 12時06分

こんばんは。
素敵なお話ありがとうございました。

私は古いものが好きで、ときどき骨董屋さんをのぞいたりします。

繋がることのないレースや未投函のラブレター、ねじの切れてしまった時計、
刺しかけたままのイニシャルステッチ。

そんなものたちが縁あって私の手元にあり、ときどき眺めたりしています。


どんな事情があったのかな。
想いは伝わったのだろうか。
伝わらなかったとしたら、
それはどこに行ってしまうんだろ。


そんなことを考えます。

でもこんなふうに、届くべきひとにちゃんと届いているのかもしれませんね。
たとえここにあるようなフォークフロアーな出来事や、あっとおどろくミラクルがなかったとしても。

素敵なお話に出会えると良いですね。


それでは。


投稿: sanagi | 2010年2月 1日 (月) 00時36分

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